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小説『朝霧』 二十二話

 

昔……
俊子が土手を見てきて直樹に言う「お父さん、車止まっていますよ」
直樹が裏口の隙間から覗(のぞ)く。
「本当だ、白い車だな。近くに行ってナンバーを控えて、観察して確実なら警察に通報だな」
「弘子には内緒にしましょうね」
「そうだな、瓢箪から駒もあるからな」
「そうですよ、恋愛に初心な娘だから、都会の男性に想われていると知ったら、もしかして」
「そうだよ、笹倉家の婿養子の話も壊れてしまう」
二人は不確実なことに神経を使うのだった。
何も知らない正造は、年が変わって朝の電車で会う回数の少なくなった弘子の姿を一目見るために、毎週のようにこの土手に車を止めて宛てのない時間を過ごしていた。顔が見たい、きっかけが出来ないだろうか? 川の霧が土手を越えて田畑も包み込み、弘子の家が霧の上に浮かんでいるような幻想的な風景だった。その日も弘子は家から出て来なかった。昼過ぎに正造は土手を離れて家路に向かった。何度、同じことを繰り返すのだろう?きっかけが欲しい、が本音だった。手紙の失敗が大きいと思う正造だったのだ。

勝巳は何度も弘子を誘って遊びに行こうとするのだが、なかなか付き合ってもらえない。弘子の両親の話は弘子には伝わっていない。本当はそんなに早く弘子を結婚させたくはなかった二人は、本人には言わなかったのだ。変な男が弘子の廻りにいるのが気掛かりだった。次の週の日曜日にも車は朝から昼過ぎまで止まっていた。
「俊子、間違いない。先週と同じだ。ナンバーを確かめてきた。顔は見なかったが、若い男性だった、時々、いいカメラを持って、我が家の方を見ていたよ」
「カメラを持っていたの?」

「そうだよ、あの夜写真を撮影した男も、間違いなくあの男だ」
「来週も来たら、警察に届けましょうか?」
「そうだな、弘子には内緒でな」
「そうですね」

しかし、翌週は朝からの雨だった。冬には比較的多い雨で、車は土手には来なかった。
「来ていませんね」
「この雨だからな、弘子も、もう学校にも今週で終わりになるので、ほとんど行きませんからね」
「勝巳君とは、その後は?」
「勝巳さんが誘っているみたいですよ」
「弘子は?」
「乗り気ではないようですね」
「上手くまとまって欲しいのだがな」
「武雄さんは?」
「高卒だろう、弘子と話が合わないのでは?」
二人には娘が短大を卒業しているのに、の自負があったのだ。当時、田舎ではようやく女性が大学で学ぶ人数が増加した頃だったのだ。通学代、学費は田舎の女子には相当な負担だった。下宿させると変な男が? の心配もあった。

翌週、冷えた川面に朝霧が漂って、幻想的な風景を創り出していた。正造は土手に車を止めてのんびりと眺めていた。
「来ていますよ」と俊子が言う。
「よし、警察に電話だ」
二人は、娘が付け狙われて困っている。カメラで何度も撮影されて、怯えて娘は家から出られないと訴えていた。
「誰ですか? 相手は?」
「わかりません。恐いから早く捕まえてください」
話を大きくしなければ警察は動かないから、二人は今もカメラで私たちの家を狙っています、弘子が出てきたら襲うために待っています、と大袈裟に言う。
何も知らない正造。突然車の窓ガラスをノックする警官。正造にはまさに青天の霹靂だった。

「ここで何をしているのだ?」
「朝霧の風景の撮影ですよ」
「お前はカメラマンか?」
「アマチュアですが?」
「本当にいいカメラを持っているな」
二人の警官は直樹に言われた、カメラで撮影された件が頭に残っていたから「聞きたいことがある、同行してくれるか?」
警官に言われて驚いたが、その時、正造は別のことを考えていた。
もしかして正直に言えば、弘子との接点が出来るのでは? 自分が言えば、確かめるために弘子が来るのでは? と異なる期待をしたのだった。
警察に行った正造は、電車の中で会う桜井弘子さんに会いたい。きっかけが欲しくて来ましたと訴えた。写真を写したのか? の質問には知りませんと答えていた。それ以外は事実、何もしていなかった。ただ、最近は毎週この土手で家を眺めているだけだったから。案の定、警察は桜井の自宅に電話で確かめていた。
「真面目な男性で、名前は田宮正造。大手の損害保険会社に勤めています。年齢は二十三歳、娘さんに電車の中で会って一目惚れして、電車の中での娘さんの会話で住所を知ったと話しています」
「それは嘘です、写真も撮影されていますし、娘は怯えています、今も部屋で震えています、厳重な処分をしてください」
弘子は友達の大山順子と遊びに出掛けていたのだが、直樹は嘘を言うのだった。そう言わないと引っ込みがつかない。
「写真は桜井さんの裏の川の渓流と朝霧が綺麗なので撮影していましたよ。何枚かの綺麗な写真を見せてくれましたよ」
「それは口実ですよ、厳重に処分を」
「一度、娘さんにも本人を確認してもらいたいのですが?」
「大学を卒業している、常識人ですか?」
「桜井さん、当たり前ですよ、大手の損害保険の正社員で一流大学を出てなければ入社出来ませんよ」
直樹には驚きだった。変な男だと想っていたが一流大学卒業のエリートだった。しかし今更なかったとは言えなかった。娘に聞くと言って、電話を保留にしてから「娘が怯えて、会わないと言いますので、そちらで厳重な処分をお願いします」
「わかりました」

話が終わった警官が正造の元に戻って「娘さんがお前のことに怯えていて、部屋を出られないらしい」
「それ? 一体何の話でしょうか?」
正造は当てが外れた。予想外の展開になった。弘子が来て自分を見れば知っているはずだ。何かのきっかけができるのでは? の目論見は見事に外れた。念書のような物を書かされて、解放された。それにはもう二度と桜井家の近所に近づかない、弘子さんにも近づかないという文章だった。
正造が帰って警官は「これ、事件になるか?」
「無理だろう。しかし一応取り調べしたから、検察には送るか」
「仕方がないだろう」
「一流大学に一流企業の男も恋愛には疎いのだな」
正造は弘子とは終わったと自覚していた。でも怯えることを何かしたか? 写真か? それ以外は何もしていない。手紙は他人に。土手ではただ田畑を眺めていただけ。遠くで……。

直樹は自分の嘘がその内バレるのでは? の恐怖があった。確かに何もしていない。被害はなかった。弘子から聞いた記憶もない。もし写真を写した男が別人なら尚更、無実の男を罪におとしいれたことになる。もしも弘子が知ったら?
その夜、直樹が「弘子、毎日の通学で会う男性で感じのいい人はいたのか?」
「お父さん、変なことを聞くのね。どうして?」
「いや、大勢の人がいるから中にはいい人もいるのかと思ったのだよ」
「そうね、昼間の通学は駄目ね、年寄りと学生が多いわね。朝は感じのいい人がいるわよ」
「そうなのか?」
「一流企業の社員とかね、素敵な人ね」
何だか嬉しそうに微笑んだ。
「何故、一流企業とわかるんだい?」
「だって、背広にバッチが付いているから、すぐにわかるわよ」
「そうか、保険会社も一流はわかるのか?」
「いい質問ですね、お父さん! 実はね、去年から朝の早い授業の時に会う男性ね、時々目が合うのよ」
「えー、その人はお前を意識しているのか?」
「わからないわ、でも大手の損害保険の社員ね。多分去年の四月入社だわ」
「弘子に気があるのか?」
「目ではあると思うのだけれど、満員電車だから、名前も住所もわからないわよ」
「その、男性が声を掛けてきたら?」
「性格は付き合わないとわからないけれど、真面目そうで感じがいいから、付き合うわ」
「えー」二人は顔色が変わった。
「でももう朝早く行かないからほとんど会わないわ。縁がなかったのね」
直樹は驚いていた。娘がいう男は今朝、警察に引き渡した男性に違いない。こんな偶然が起こるのか? 愕然とする直樹だった。
「俊子、困ったな、弘子は好きだったようだ」
「もう、どうすることも出来ないわ。縁がなかったのよ」
「無実の罪で逮捕してしまったのかも」
困り顔の二人は「早く、結婚させましょう」
「そうだな、勝巳君は乗り気だから、弘子さえ承諾すればまとまるな」
二人は勝巳に弘子を会わせる策を練るのだった。


 

 
 

 
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