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ひおかのお知らせ 秋商品「月見まんじゅう」取扱始めました。 2019年10月1日より、原材料高騰により価格改定をいたしました。<

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野々村の家は意外にもすぐに見つかった。チャイムを鳴らすと二十歳過ぎの男性が扉を開けて「どなたですか？」と言った。その目が陽子に釘付けになっていた。
「あの、桜井陽子と申します」と挨拶の後、田舎から母のことを聞くために来たと告げると、男性は我に返って家の中に入っていった。しばらくして今度は少し年上の男性と母親らしい女性が現れて「桜井さん？」
「はい」
「うちの誰に用事なのでしょう？」
二人の男性は陽子に見とれている。最初の男性が「応接に上がってもらったら？　遠くから来られているから」
母親が頷（うなづ）いて応接に通した。座ると正造が名刺を差し出した。
「田宮正造と申します」
名刺を見て「保険の調査？」と母親が言う。
先ほどの男性が冷たいお茶をもってきた。三人が座る。陽子を見るために。陽子は帽子を脱いで横に置く。長いストレートの綺麗な黒髪に二人が見とれているのが、よくわかった。その後、視線が胸元に集中していた。谷間が見えそうだったから。
「こちらに野々村真希さんという方はいらっしゃいませんか？」
「もう結婚されているか、ご親戚かもしれませんが」正造が付け加えた。
「主人が今日はゴルフで出掛けています。私は真希さんという方は知りませんが」
「年齢は四十歳過ぎだと思います」陽子が言う。
「ご主人のご両親は？」

「祖母は昨年亡くなりまして、祖父が今は老人ホームに入っていますが、痴呆が進んでいまして」
「そうですか、わかりませんか？」と言う正造に「一体何を調べていらっしゃるの？」と母親が尋ねた。
「私の母のお友達だったと思うのです、真希さんが」陽子が言うと、長男が「お母さん、もしかして、お父さんの一番下の妹じゃあないの？」と言った。陽子は急に元気になって身を乗り出す。弟の目の前に陽子の胸元が近づくと刺激が強い。弟は生唾を飲み込んだのだった。野々村智也が兄で弟が伸也、母が由希子、父が和也。息子二人は独身で、陽子の訪問は、二人には刺激がありすぎた。
由希子が少し考えて「智也が言っている主人の妹さんなら、随分昔に亡くなられたと思いますよ」
「えー、亡くなられた」
「はい、私が結婚してしばらくして、亡くなったと主人が教えてくれましたが詳しくは知りません、妹さんとは仲が悪かった様です」
「何故、亡くなられたのでしょう？」
「確か事故だと聞きました。一度もお会いしていませんね。私達の結婚式は東京だったので、両親だけが来られました」
「何かわかれば連絡しますよ」伸也が言うと、智也が「父に詳しい話を聞いて連絡します」と二人とも、陽子に接触をしたいために、何かを話したかったのだ。
正造と陽子は落胆していた。表情が曇った。東京まで出てきたが、肝心の真希さんは昔に亡くなっていない。
「何かわかりましたらよろしくお願いします」と挨拶をして野々村の家をあとにするしかなかった。
二人の息子がタクシーまで見送ってくれた。それは陽子への印象を良くしたいからだった。
タクシーの運転手が「見つかりましたか？」
「いいえ」
「残念でしたね、気を落とさずに。八王子駅でいいですか？」
「はい」と言う陽子の声に元気がなかった。
「でも、不思議だな」
「何が？」
「確か大山順子さんも事故で亡くなったように聞いたでしょう」
「本当だわ、野々村真希さんも、はっきりわからないけれど事故だって言っていたわ」

二人が話すのを聞いて運転手が「友達同士で車の事故とか？」
「大山さんと野々村さんが同じ車に？」
「母も？」
「それなら、お父さんも？」
「おじさん、叔母さんのことを教えてよ」
「私は知りませんよ、会ったこともないです」
事実、知らなかった。電車の中での会話と表札の名前以外は何も知らなかった。タクシーの中は沈黙だった。お互いが考えていた。車の事故？　四人で？　でも何故、祖父母が隠す必要があるのだろうか、と正造は考えた。
陽子は一度に両親が交通事故で亡くなって可哀そうだから外国に行ったと、自分を慰めるために隠した？　と考えていた。でも墓も位牌もないのは？　二人の友人との接点はあるのだろうか？
しばらくしてタクシーは八王子駅に到着した。外は雨が降り出して風も強くなっていた。中央線の中の二人は沈黙が続いていた。どちらかが話さないと沈黙が終わらない。二人とも両親の事故死に疑いを持っていたが言い出せなかった。
東京駅に到着して特急券売り場で「台風が遅くて、下りの新幹線が無事に運転出来るか不明です」と言われたが、帰らなければならないから、二人は一番早い（ひかり）のグリーン車に乗り込んだ。
「台風が名古屋あたりに停滞しているようだね」
「帰れるのかな？」
「大丈夫だろう、多少遅れるだろうが」
新横浜を過ぎると大粒の雨が窓を叩く。小田原を過ぎて車内放送が「静岡管内の雨量計が規定の水準を超えましたので、この電車は三島駅で運転を取り止めます」と案内をした。
「おじさん、帰れないよ」
「そうだな、どこかに泊まらなければならないな」
「明日は大丈夫かな？」
「明日は大丈夫だろう」
不安な顔の陽子を慰める正造。
「熱海なら温泉地だから、泊まれるだろう」
「熱海？」
「貫一お宮の熱海だよ」
「知らないわ、何それ？」

「明治時代の恋愛の話」
「そうなの」
しばらくして熱海到着の放送に沢山の乗客が降りる。同じことを考えているのがよくわかった。ホームは大勢の人。新幹線の改札には行列。払い戻しの証明をもらってから改札を出るから、なおさら混雑していた。
駅前は大粒の雨。駅前の旅館案内所に駆け込む。少し走っただけで濡れる。どこか空いている旅館はないか尋ねるが、二部屋で小さな部屋は皆無だった。ご一緒なら二軒空いていますと言われて、陽子に尋ねる。
「私は気にしないから、いいわよ」そう言うから、その旅館を紹介してもらったが、一軒は凄く小さな部屋。片方は露天風呂付の部屋だった。正造は高級な方にしなければ今夜は大変だと高級旅館にしたのだ。予約の間にもう一つの旅館も満員になった。後から後から客が来た、もう一歩で野宿か。今夜はラブホも満員だな、そう思いながら陽子に「旅館、ギリギリ確保出来たよ」と言うと「おじさん、ごめんね、明日の仕事出来なくなったね」と恐縮顔で言うのだった。
タクシーに乗り込んで目的の旅館に到着。
「おじさん、高級旅館だよ、ここ」
立派な造りに驚く陽子。
「ここしか、空きがなかったのだよ」
ロビーに入るだけで高級感いっぱいで、仲居が抹茶と和菓子を盆に載せ、宿泊名簿を持参してきた。田宮正造、娘陽子と記入した。
すると仲居が「綺麗なお嬢様ですね」と笑いながら言った。
「参りました、東京見物の帰りに台風で」
「新幹線が止まりましたからね」
大浴場の説明と明日の朝食の時間を聞いて部屋に案内をされた。
部屋に入ると陽子が感嘆の声を発した。
「凄いわ、お父さん、露天風呂が二つもあるよ、浴槽にテレビも付いているわ」
陽子の声の中、仲居が「夕食は七時半から、お食事処で」と言うと部屋を出て行った。
「おじさんは外のお風呂、私はこちらね、もう一度入る時は交代でね」
そうは、言ってもほとんど見える。浴衣に着替えると自然と見える。ベッドも低床の広いセミダブルのツインだ。陽子の喜びよりも困る正造だった。自分を制御出来るのだろうか？　それが心配だったのだ。早速、中の湯船にお湯を溜める陽子。思い切って聞いてみる「おじさんと一緒で恐くないの？」
「全く。お父さんだから。それに、襲ったら責任取ってくれるでしょう」

「そりゃ、そうだけれど」
正造は責任取りたいよ、出来るなら、と心で叫ぶのだ。
「ここから出てね、私お風呂入るの、髪も濡れたから洗いたいの、見ちゃあ、駄目よ」
そう言って正造を風呂場から押し出した、複雑な心境の正造だった。

 

 

 

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